リヒテンネッカーのアストロカメラFFC4.0/760

 ベルギーのハッセルトという小さな都市にあるリヒテンネッカー光学(Lichtenknecker Optics)のFFC(Flat Field camera)の調整を行いました。

テスト設定_外部クリーニング済_20180331
 ある方からお預かりした光軸調整依頼品なのですが、所謂ベーカーシュミットカメラです。

補正板クリーニング_20180404
 補正板をクリーニング他

主副鏡ユニット取り出し_20180404
 主鏡・副鏡の温度補償機構を引出してみる

主鏡セル_20180404
 セルでの主鏡収納状態

副鏡構造2_20180404
 副鏡支持機構

 FFCは有効径190mmF4.0ですが、アストロカメラとしては比較的F値が暗い方です。
ベーカーシュミットカメラは皆さんが良くご存知のシュミットカセグレンの兄弟光学系で、広写野の平坦像面を得るために補正板位置を主鏡の球心付近に配置します。
副鏡の拡大率が約1.5倍ですから、鏡筒長が合成焦点距離のほぼ1.3倍くらいになります。
目的は違いますがシュミットカセグレン鏡筒長は合成焦点距離の約1/5ですから、それに比べて随分と長いものです。

 ベーカーシュミットカメラをカタログ製品として市販していたメーカーは、イタリアのZENとベルギーのリヒテンネッカーくらいしか思いつきません。
どちらも独自のスタイルで設計されていて、実際に分解してみると参考になります。
 私も21cmF3.2と40cmF3.4の2本のベーカーシュミットカメラを製作しましたが、いずれもZENと同じく平坦形補正板と直進ヘリコイド式接眼部を採用しました。
それに比べて今回調整したFFCはR付き補正板と副鏡移動式固定接眼部を採用しています。
その他にも、主鏡の保持方法が違っています。
ZENはMeadeやCelestronのシュミットカセグレンと同じく、主鏡にバッフルを通すようにして中央穴周辺で支持しますので主鏡セルが存在しません。
それに比べてFFCは主鏡バッフルが存在せず、主鏡はセルに収めて外周で支持しています。
主鏡を外周で支持すると、ちょっとした不均等な圧力で直ぐに面が歪んで星像を乱します。
それに比べてZENやシュミットカセグレンの主鏡支持方法は機構も難しくなく歪みにくいので取り扱い易いですね。

光軸室内簡易調整準備(糸張)_20180405
 一般にベーカーシュミットカメラは光軸調整が難しいと言われることが多いのですが、それは違っています。
補正板、主鏡、副鏡が全て同軸上に配置されていますので、補正板の非球面軸が大きく偏芯製作されていない限り、完全なシンメトリーを目指せばよいことになります。
イプシロンなどに比べて遥かに簡単です。
上の写真は筒先に十字に糸を張って主鏡の傾きを調整の準備をしているところです。

主鏡調整完了_20180405
 十字の中心に目を置いて、上の写真のようになるよう主鏡の傾きを調整します。
ぼやけた十字の中に主鏡に移った十字の糸が見えますでしょうか。

副鏡調整完了_20180405
 次に接眼部にセンタリングアイピースを取り付けて副鏡の傾き調整をします。
ここに見える白い円は副鏡に写った像です。
その中に見える十字糸と更に内側の白いリングの中の十字糸が上下左右ズレていないことにご注意ください。

 室内での光軸調整はここまでです。
後は実際にフィールドに出て、焦点内外リング像を見ながら全周一定幅になるように副鏡のみ調整すれば完了です。
FFCのようにF4位の場合はこれで充分ですが、更にF値が明るい鏡筒では焦点の極近傍でのアスを見ながら主鏡の傾きの微調整を行います。
これは主鏡軸が補正板の非球面中心から外れるとアスが発生することを利用した調整です。
余りイメージの悪い場合はこのテストが出来ませんが、そのような夜の撮影は星像も肥大しているので気にしなくても良いですね。
凄いイメージの良い空に出くわしたら、その時に行えばよい最終調整でしょうか。

 FFCで最も素晴らしいのはR付き補正板です。
フラットフィールドカメラと呼ばれる光学系にはベーカーシュミットカメラ以外にマクストフカメラなども存在します。
撮影写野に輝星が入り込むと平面形の補正板を使ったベーカーシュミットカメラでは激しいゴーストが発生します。
最近の4~5層の反射防止コーティングで、ある程度までは防ぐこともできます。
しかし、淡い星雲などを目一杯炙り出すような画像処理にかかっては、ゴースト発生は致命的な問題になります。
 実はマクストフカメラではこのゴーストの発生がありません。
その違いは補正板が平面かR付かの違いによります。
元々、ゴーストの光源は焦点面に作られた輝星の光点です。
この光点が光源となって副鏡、主鏡、補正板と戻り、補正板表面で僅かに反射した光束が再び焦点面側へ進んで少し広がった副星像をゴーストとして作り出します。
従って、補正板がR付き(マクストフ補正板のように主鏡側が凸)になっていると、主鏡から戻って来た光束が再び補正板に反射されても、広がってゴーストを作り出すことが無くなります。
それなら最初からマクストフカメラの方が良いと思われる方もおられるかもしれませんが、マクストフ補正板はシュミット補正板に比べて厚い光学材料が必要なのでコストが高く、おまけに星像はベーカーシュミットカメラの方が優れています。
 FFCの補正板を見ると僅かにRが付いています。
表裏面を夫々大きく傾けて、部屋のシーリングライトなどを映して比較すると、明らかに大きさが違うことが解ります。

FFCTEST_M8-20180413.jpg
 室内での簡易光軸調整を完了させてからフィールドへ持ち出してのテスト撮影結果です。
ゴーストチェックを行えばよかったのですが、最初にこの画像を撮影してテストは即終了です。
星が三角形になっていますので、これ以上のテストは意味がありません!
FFCにはスケアリング調整機構がありません(ZENも同じです)が、その点はこの画像を見る限り問題ないようです。

5μピンホール人工星-内外像_20180411
 帰宅してから20cmシュミットカセグレンを利用したコリメータを製作して調べた焦点内外像です。
(画像は4/14の記事に使用したものです)

 光軸調整だけだと思っていたら主鏡が歪んでいます。
これで主鏡セルから主鏡を取り出して歪みの原因を取り除いてやらなければなりません。
簡単に終わると思っていた調整でしたが、とんだハプニング発生です。
結局、前にも述べましたように、主鏡をセルに収めている構造が災いしていました。
セル枠内径と主鏡外周とのクリアランスが極端に小さくて、しかも双方とも真円形ではなく僅かに三角形をしていたようで、所定の位相に収めないと主鏡がおむすび形に歪むようです。
セル内径が三角形であることは三つ爪チャックに咥えて旋盤加工を行った際の変形であることは想像できますが、主鏡側が三角形に変形していることはガラス材のグラインディング作業を想像すると起こりえない現象です。
セル内径が三角形でも主鏡外周が真円であればこのような問題は発生しない筈なんですが、謎です。

FFC主鏡歪み解消後の星像_20180502
 主鏡が歪まないセル・主鏡の位相を探し出し、再びコリメータのよる星像テスト結果です。
通常、メーカーでは組み合わせるパーツには合印を付けますが、FFCの場合は主鏡や補正板のコバに書き込まれた手書きのシリアルNo.が基準位置になっているようでした。

 随分と手間取りましたが、後は再度フィールドテストで問題の無い星像が得られるか確認したらオーナーさんへ返却です。

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No title

すごっ!
まさにエキスパートのための専用機材という出で立ちですねー。

それにしても、コリメータの疑似星像テスト結果があまりにも明瞭で驚愕しました。

No title

あぷらなーとさん、おはようございます。

 このFFCは直ぐにオーナーさんに返却しなければなりませんが、なかなか魅力的な筒です。
もっとF値の明るく、ゴーストの心配がいらないR付補正板のベーカーシュミットが欲しいです。
 コリメータを使っての光軸調整や星像チェックは本当に便利です。
フィールドでは常にシンチレーションの影響を受けて、なかなか焦点近傍の詳細な状況が見えませんが、自宅ではぴたっと落ち着いた星像が見られるので、もう楽々です。

No title

補正板によるゴーストはシュミット系では頭が痛いですね。
私の持っていたライトシュミットは補正板を傾けていたために、ゴーストレスになって精神衛生的に良かったです。もし傾けられなかったらデジタルになってからは使えませんでした。

マクストフカメラも使ったことがありましたが、確かにゴーストは出ませんね。
でも厚いメニスカスレンズは重いし、おまけに私の鏡筒はインバールを使って温度補償をしていたにもかかわらず、温度変化でピント位置がものすごく変わって使いづらい機材でした。

コリメータによる星像テストを拝見する限り、完ぺきですね。素晴らしいです。

No title

カムイミンダラさん、こんばんわ。

 平面のシュミットプレートによるゴーストは問題が大きいですね。
僅かに曲率を与えるだけでゴーストから逃れられることをもっと以前に知っていたら、わざわざ製作が難しい平面形の非球面板の研磨などしなかったのですが。
凹面を非球面化するのは平面形非球面板の製作に比べて非常に楽になる筈です。
最近ZENの20cmF2.0のベーカーシュミットカメラを手に入れましたが、補正板が白ヤケしているので、この際R付メニスカスタイプの補正板に替えようと考えています。

 マクストフ・フラット・フィールド・カメラはシュミット補正板に比べて厚く透過率の良い光学ガラスが使われるので、重く高価で更に性能はベーカーに劣ります。
ZENやリヒテンネッカーのベーカーシュミットでの温度補償は比較的安定しているようですから、この際自作カメラも改造しようかと考えています。

 コリメータに使っているMeadeのシュミット・カセグレンが比較的良いできの光学系なので、アストロカメラの結像性能の判断くらいはできそうです。


プロフィール

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Author:voyager_camera
小惑星観測屋崩れの「天体写真か!」です。もう新天体サーベイも位置測定もしませんので、鑑賞天体写真撮影に勤めています。訳あって天文雑誌などのフォトコンには応募しませんが、このブログ以外でも写真を見ていただける機会が増えるようボチボチやってます。(大島 良明)
mail:y-osima@sannet.ne.jp

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